対戦通知
地下迷宮の封印の間からかなり離れた所まで移動してヴァリラはやっと息をついた。
腕の中で気を失っている少女に恨みがましい視線を向ける。比較的小柄な体型とは言えそれなりの重さはある。それを両腕でだけで抱えてここまで走ってきたのだ。息だって上がる。背負っていればまだ楽であっただろうが、あんな化け物に睨まれた状態でそんな時間のかかる運び方はできなかった。
確かに助けに来たわけだが、まさかたどり着いたその時に気絶されるとは思わなかった。いかにヴァリラといえどプラティを守りながら「あれ」と対峙するのは不可能だ。基本的に彼は自信家だが、それは根拠のないただのプライドや自信過剰ではないし自身の力量も把握している。だからそう瞬時に判断して、プラティの救出を最優先に考えここまで逃げてきた。
封印の間を出る時彼女の護衛獣にまで気を配る余裕がなかったが、ちゃんとついて来ていたようだ。今はプラティの顔の近くを心配そうに漂っている。
これからパリスタパレスにどう立ち向かうか、考えなければならないことはあるが安全な場所まで逃げてこられた安堵感に伴って疲れがドッと押し寄せてきた。今はとにかく休みたかった。
自分は壁に寄り掛かればいいとして問題はプラティだ。少し逡巡してからヴァリラは壁を背にして座り、プラティの頭を膝に乗せる。上着も脱いで下に敷いてやる。気恥ずかしさはあったが、泥や土埃にまみれた地面に直接横たえるのは気が引けた。
「お前も少し休……」
彼女の護衛獣にも休むよう促そうとしたが気遣いは無用なようだった。すでに小動物よろしく体を丸めて、プラティに寄り添うようにして目を閉じていた。
「……ん」
寝心地が悪かったのかプラティが身動ぎする。上着を敷いてやっているとはいえ下は堅い石面だ。無理もないだろう。
だがそれは寝心地の悪さからではなかったらしい。何かを求めるように伸ばされた手が何度か空を切った後ヴァリラの服を掴む。
「おい……」
離そうとして手を出すと今度はその手を掴まれる。反射的に腕を引こうとしたがプラティの表情に気づいて動きを止める。
苦しげにひそめられた眉。震える瞼の端からは涙が一筋流れていた。
「……んね」
僅かに開閉する唇から声が漏れているようだが、小さすぎて聞こえない。彼女の吐息がかかるぐらい耳を近づけてやっと聞き取ることができた。
「ごめんね、サナレ。……ごめんね、ヴァリラ」
「な……」
ひたすらその言葉だけを吐き出し続けるプラティの唇を呆然と眺める。
どうしたら、そんな言葉が出てくるのか。
どうして、
「オレにまで謝る必要がある……」
自分との御前試合よりもサナレを優先されたことが悔しくて子供じみた八つ当たりをした。真に謝るべきはヴァリラの方だ。
プラティを助けに行けば、そのひどく情けない稚拙な行為が清算できるような気がした。これはそんな姑息なことを考えた罰なのだろうか。謝罪すべき相手に逆に謝られては余計に情けないだけだ。
そんな風に謝るぐらいなら、なぜ最初から自分を選んではくれなかったのか。
人にこんなにも惨めな思いをさせておいて、許してくれとは勝手すぎるにもほどがある。
「……許せるわけが無いだろう。オレとの試合をすっぽかしておいて」
包み込むようにしてプラティの頬を撫で、未だ流れ続ける涙を拭ってやる。
「だから早く目を覚まして、オレと勝負しろ。お前を負かしていいのはオレだけだ。パリスタパレスなんかに絶対に負けるんじゃない」
そう言ってゆっくりとプラティの両頬から手を離す。
もう涙は流れてはいなかった。
†あとがき†
今回はちょいと短めですね。
いまいちお題に沿ってるかどうか微妙かも。
物語終盤、パリスタパレスに負けたプラティをヴァリラが助けに来たところ想定して書いてます。
ゲーム中あの場面はヴァリプラ好きにはかなりおいしかったのではないかと。
……少なくとも私はニヤニヤ笑いが止まりませんでした。
背景の写真の花は「オダマキ」です。
紫色のオダマキの花言葉は「勝利への決意」。
※この小説は以前お題小説として書いたものです。
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