※注意
   このお話は真珠前提ですが、真弘は出てきません。全く甘い話もありません。
   珠紀と美鶴のとある日のちょっとした会話です。
   それでもよろしければ、どうぞ。














おしゃべり


 通りかかった廊下から、奥座敷に入っていく美鶴が見えた。客室として使われている場所で、珠紀が出入りすることはまったくない。宇賀家の家事を一手に引き受ける美鶴ではあるが、家の掃除はすでに終えている時間のはずで、改めてこの部屋に入るはおかしな話だ。
 守護五家の面々が泊まりに来るのだろうか。もしそうなら布団など準備することもあるだろう。確認をしようと、美鶴の後を追いかけて部屋に入る。

「美鶴ちゃん」

 押入れを開けようとしていたらしい美鶴は、少し驚くようなそぶりを見せたが、笑顔で珠紀に振り向いた。

「珠紀様、どうかなさいましたか?」
「部屋に入るのが見えたから。誰か泊まりにくるのかなって思って」
「お泊り、ですか? いいえ、そのような話はうかがっておいませんよ。書き物をする資料をそろえるよう言われまして、それを取りに来たんです」
「資料か……私に手伝えることある?」
「そう言ってくださると助かります。ぜひお願いします」

 美鶴は手を掛けたままになっていた障子を開けて、小さめのダンボールを取出し始める。

「…………」
「珠紀様?」

 間の抜けた顔をして立っていたせいだろう、美鶴が不思議そうに小首をかしげている。

「あ、ううん、断られるかと思ったからびっくりしちゃって」
「珠紀様は玉依姫ですから。宇賀家にどういったものがあるか、知っていて悪いことはありません」
「あはは、そういうことか」

 相変わらずの受け答えに苦笑する。だが最初に比べれば格段の進歩だった。きっと季封村に来たばかりの珠紀なら、玉依に関わることでも美鶴は手伝わせてくれなかっただろう。少しずつでも認めてもらえているという実感がうれしかった。

「それで、なんて名前の本を探したらいい?」

 美鶴からいくつかの本のタイトルを聞き、お互い資料探しに没頭する。 押入れの下段に収納されていたダンボールには、どれも本が詰め込まれていた。題名から察するに分野ごとに分けられているようだ。蔵にある書物に比べれば新しい年代の本が多い印象だが、それでも100年以上前の物が大半を占めている。
 目的の本を数冊見つけ、次のダンボールを開ける。その中に一冊、不自然なほど他のものより真新しい本が入っていた。背表紙には何も書かれていない。手に取ってページをめくるってみると、アルバムだった。 納められた写真には、まだ幼い五家のみんなや美鶴が写っている。今現在の姿の面影がわずかにある程度の者たちがほとんどの中、一人だけあまり変わらない人物を見つけ、珠紀は思わず笑ってしまった。

「そのアルバム、こんなところに紛れ込んでいたんですね」
「わわっ」

 美鶴の声に驚いて、アルバムを取り落しそうになる。そういえば資料を探す手伝いをしていたのだった。

「勝手に見てごめんね。資料、探さなきゃね」
「気になさらないでください。それに資料も急ぎではありませんから。……このアルバム探していたんです。見つけてくださって、逆に助かりました」
「そうなの?」
「はい、鴉取に頼まれました。珠紀様にお見せしたいと、おしゃっていましたよ」
「真弘先輩が? どうしてだろ」

 首をかしげて考えてみたがわからない。もちろん、珠紀が見たいと言ったわけでもない。
 あの真弘のことだ、昔の自慢話でもするつもりなのだろうと珠紀は一人納得したが、美鶴が意味ありげな笑顔を向けているのが気になった。

「美鶴ちゃんはどうしてか知ってるの?」
「本人から直接聞いたわけではありませんが、なんとなく。みなさんが昔話をしているときに、珠紀様が寂しそうなお顔をされているのが、気になってらしたのではないかと思いますよ。もし鴉取さんがなさらなくても、きっと私が似たようなことをしていたでしょうから」

 母親か姉が見守るような柔らかい微笑みを浮かべる美鶴に照れてしまい、珠紀は視線を逸らした。

「……私って、そんなにわかりやすいかな」
「素直で可愛らしいかと」
「そ、そんなこと言っても何も出ないよ?」

 耳まで真っ赤になった珠紀を見て、美鶴はにクスクスと笑った。

「ところで珠紀様、このアルバムはどうなさりますか? お持ちになりますか?」

 もとは真弘が珠紀に見せるつもりで美鶴に頼んだものなのだから、ここで珠紀が受け取ってしまっても問題はないはずだが、珠紀は首を横に振った。あの照れ屋でぶっきらぼうだけれど、でも優しい先輩が何と言って渡してくれるつもりなのかと、面白半分に考えた。

「美鶴ちゃんから真弘先輩に渡してあげて。どんな風に渡してくれるか、少し楽しみじゃない?」

 茶目っ気たっぷりに笑ってみせる珠紀につられて、その時の真弘の様子を想像したのか、美鶴もおかしそうに笑った。










†あとがき†

いやなんかもう、当初の予定と違うっていうのは結構よくあるんですが、ここまで全然違う話になったのは初めてです。
難産でした……。
あーだこーだやってるうちに、中身のないグダグダ会話になってしまいました。
UPしようか迷ったんですが、書くのに数カ月かかったので、せっかくですから公開しました。
注意書きにも書いたとおり、珠紀と美鶴のちょっとした会話だと思っていただければ幸いです。

 




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